嫌な予感。虫の知らせというのだろうか、スザクは授業中に窓の外を見た。 確実にルルーシュは寝ているな、と思いながら窓の外の景色にスザクは固まった。 なんでモルドレット?ってか何でアッシュフォード学園? ルルーシュはまだすやすや寝ている。 やっぱり君がゼロなんだろ!とどうでもいい(少なくとも今は)事を考える。ただの責任転嫁と現実逃避だ。 完全に寝ていないからだろう、ルルーシュがすっと目を開きスザクを見た。 やたら焦っているのに気付き口を開こうとしたしかしそれは原因に阻まれた。 『スザク、グラウンドに出て来て。さもないと学園を潰す』 どこのテロリストですか!?教室内がざわめき始める。 ルルーシュは振り返ってモルドレットを見ると、ゆっくりとスザクに向き直る。 「呼んでるぞ」 あれ、君、寝てる?一気に疲れたスザクは机に伏せる。頬を抓るが痛い。教室がますますざわめく。 声からしてアーニャに間違いないだろう。 「あのー」 全員の目がスザクに集まる。 「あれに乗ってるのは、ナイト・オブ・シックスです。だからまず、学園を潰す事はないと思います。……呼ばれてるみたいなんで、失礼します」 教室がシンとなる。ラウンズって変人ばっかりなのかという誤った事実が広まった。 ちなみに変人第一号は枢木スザクである。現に呼ばれたからと窓から外に出る奴がいるか。 生徒は何が起こるのか、と窓に近付く。 ドスン。 ……? 目の前の光景が理解できないとばかりに、目を擦る。しかし、全く同じ光景だ。 ナイトメアがスザクを潰そうとしている。たしかあれはラウンズなはずだよ、ね? スザクもラウンズだったよね? 「何やってんだろ」 「さぁな。まぁ、直にスザクは潰されるだろうな。グラウンドが持つか……」 「いや、そこはスザクの心配をすべきかと」 「思考の強制誘導はよくないぞ」 ルルーシュさん、何かスザクにされたんですか?な勢いでグラウンドの心配をし始めるルルーシュにリヴァルは困惑気味だ。 「いや、でもスザクが潰されるか?そりゃ生身だけどラウンズだし」 そんなリヴァルも具体的行動には移していないので人の事を言えない。ルルーシュは肩肘ついてぼんやりと外を眺める。モルドレットがスザクのスピードに着いてきている。ギアスがかかっているから死ぬことはないだろうと、楽観的だ。 「いいや。考えてもみろ。スザクがラウンズになれたのはゼロを捕縛したっていう武功だけだ。ラウンズは普 通、総司令を務める位の頭も必要。軍としての功績もあげないとならないだろ。一対一じゃ差はないかもしれないが、多数対多数だと正確な指示を出せないスザクが圧倒的不利。俺だって勝てるだろうな。慣例を 壊すのは構わないが、それはあまりにも利に適ってない」 ユフィの騎士だった時も。守りたいのなら常に傍にいなければならなかったはずだ。 意外にシビアな答えにリヴァルは声も出ず、スザクを見た。 教師は学園長に報告に行ったためその場には生徒しかいない。その生徒も窓に近付いている。 ルルーシュは一人黒板を眺めている。騒がしすぎて、誰かが入って来たのにも気付かない。 「っ!」 ルルーシュは口元を塞がれ誰にも気付かれないまま教室の外に出される。 抵抗するが、まるで意味がない。まさか、あの騒ぎはこのためか……? あっという間にルルーシュは外に連れ出された。目の前には、白いナイトメア。ランスロットではない。 彼の機体、トリスタンだ。ルルーシュがいくら抵抗しようと、ジノはまったく気にした様子も無く、ルルーシュを トリスタンに押し込めた。 「お前っ!何のつもりだっ!」 「まーまー」 モルドレットに気を引かれすぎて、もう一つのナイトメアに気付かなかったのは痛いミスだ。 そのままトリスタンは飛び上がり、未だにスザクを踏み潰そうとするモルドレットの姿を見た。 大分、グラウンドが陥没してきている。請求はスザクでいいだろう。彼が避けなければ、穴も開かなかった。 『アーニャ』 オープンチャンネルにして、ジノが叫ぶと、モルドレットの動きが止まる。止まったからといって、スザクには何もできないが。 『こっちは完了』 『私はまだ』 潰し足りない、っていうか潰してない。 あっちゃー、とジノが頭を抱える。ルルーシュは今の好きに逃げたいが、どうやって逃げればいいんだ。 ギアスか? ジノは通信を一端切る。 「すいません、アーニャに止めるように言って貰えません?」 「何故だ」 「アーニャがあぁしてるの、貴方の為なんで」 目を合わせた今なら、ギアスをかける事ができる。しかし、アーニャという名前に聞き覚えがある、というか 今思い出した。アーニャ・アールストレイム。まさかな、とルルーシュは僅かに微笑んだ。 「いいだろう」 「ありがとうございます」 ジノはそう言って、アーニャにだけ通信を繋ぐ。カメラには、アーニャが映る。 記憶の中のアーニャと同じ、だ。アーニャのカメラにはジノしか映っていないから、彼女からは何も分からな いのだが。 『アーニャ、もういい』 思わずその名を呼んでしまいそうになるが、アーニャ側からはオープンになっている。 スザクがその名前を聞いてしまうのは、マズイと思い、口を押さえる。 早く、その名をその姿を目にして口にしたい。 何年ぶりに、貴方の声を聞くのだろう。アーニャはふらふらと誘われるように、トリスタンの近くに移動する。 既にクローズにしてある。 『ルル様……』 「悪いっ!感動の再会は後で。えっと、ゼロ、本拠地に案内お願いします」 「それとこれとは別だろう。というか、何故俺がゼロなんだ」 アーニャの姿にやっぱり少しだけルルーシュは頬を緩ませた。 しかし、ジノはスザクの姿を見ると悠長にはしていられない。 『ルル様、私、ルル様の味方だから。私がルル様のこと、分からないはずがないから』 現に親友だと言っておきながら、正体に気付かなかった馬鹿がいるんだが、とルルーシュは口にしそうに なるが止めておく。アーニャが自分と為にスザクを踏み潰そうとしたのだ、これ以上ここで時間を過ごしたく はない。 「分かった。こいつも信用していいのか?」 『裏切ったら潰すから』 「そうか、なら行こうか」 え、俺にもその仕打ちするんですか?裏切らないから大丈夫だと思うけど。 「ちょ、ルルーシュ!?なんでっ!?こいつらって」 一足先にトリスタンから降りるとカレンが銃を構えてそこにいた。 当然だろう。敵の機体が二体も降りてきたのだから。幹部のほとんどがそこにいた。 ……そういえば、今はゼロではなくルルーシュだ。非常に都合が悪い。 そんな事、気にも留めずジノが降りてくる。こいつも空気を読まないのだろうか、とルルーシュはその 能天気そうな髪の色を見た。 「いんやー、ここが黒の騎士団!君、赤いヤツのデヴァイザー?」 「は?ちょっと、ルルーシュ、何者?ってか何?」 「聞くな。俺も困ってる」 腕を組んで、この場をどう取り繕うか、できれば自分がゼロだと知られずに、だ。 しかし、そうも行かないようで、今度はモルドレットからピンク色の髪の少女、アーニャが飛び出してくる。 そのまま彼女は、一目散に考え込むルルーシュの腰にぶつかって、見事倒れる。 「ルル様!ルル様!ルル様!」 腰を打ち付けて、痛そうだがルルーシュはしっかりとアーニャを抱え込んでいる。 黒の騎士団はどうしたらいいかわからずに、それでもカレンが何もしないならまだ平気なのか、と 様子を伺っている。 そんな中で、藤堂はルルーシュの姿に驚き、ラクシャータもまたルルーシュの姿に呆気にとられる。 ジノも振り返り、そんな二人の様子を見ている。 「アーニャ」 「!!」 改めて、名前を呼ばれる。今度は生の声だ。先程の制止の声とは違って、優しく暖かい声。 もう二度と呼ばれないかと思っていた声で、名前を。 「ルル様、私」 「アーニャ、どうしてこんな事?」 そっとルルーシュは妹にするみたいに、その頭を撫でてやる。 「許せなくて、スザクが。ルル様にあんなことっ……!」 「ありがとう、アーニャ」 アーニャがあれほどまでに感情を露わにするのを見るのは初めてだ、とジノは思う。 それほどまでにアーニャの中では大切な初恋の人、なんだろう。 「私、黒の騎士団に入る。ルル様の味方になる」 「あ、俺も」 流石に気付いたからにはあそこにいられないし、とジノは笑う。 ちなみに、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアがゼロだという事に気付いたからではなく(それもあるが)、 自らの仕える主が巻き舌絶倫バッハもどきであるという事に気づいたからである。 「……えーっと、それは俺には」 「ルルーシュ様、私は彼らを受け入れるべきだと思います」 すっと、ラクシャータが前に進み出て、ルルーシュの前にひざまずく。 あのラクシャータが、とざわめきが幹部たちにあふれる。 これでは、もう、ただの学生だと誤魔化せないだろう。 「分かっている。しかし、こいつらが認めるか?」 「ならば、別の組織を作ればいいことです」 「……それでは、」 何にもならない、とルルーシュが反論しようとする。 「私は着いて行く」 「俺もだ」 カレンが同意したのに続いて、藤堂までもが同意する。 なぜ、藤堂が、とその場の者が藤堂を見る。 「彼を知っている、それだけだ」 話しぶりからすると、やはり彼がゼロなのだろうか。 「アーニャ、ありがとう」 アーニャを立たせると、自らも立ち上がり幹部たちを見る。 正体は明かすつもりは無かったのだが、仕方が無い。 カレンも数歩ルルーシュに近づいて、振り返った。ラクシャータも立ち上がると、同様に。 「……お気づきの通り、俺がゼロだ」 「歳、は?」 それから聞くか、と扇を見た。 「カレンのクラスメイトだ」 「ラクシャータは、どうして?」 元々のリーダーだった扇に全ての質問が任されているらしい。 「あら、それは秘密」 ふふ、とラクシャータは笑う。 「それじゃ、彼らは?」 アーニャとジノを見て、扇は言う。アーニャはルルーシュの服を掴んでいる。 よっぽど離れたくないのだろう。 「ラウンズ、ナイト・オブ・ラウンズのスリーとシックスだ。シックスは信頼しても構わない」 「ジノも」 「スリーもだそうだ」 「君の目的は?」 「ブリタニアの崩壊」 「えーっと」 質問が尽きてきたらしい。扇は腕を組んで、少しの間だけ悩んだ。 それから、ルルーシュを見た。 「俺は、今後もゼロに着いて行く。意義があるものは?」 それから |